J-PARCとは、JAEA(日本原子力研究開発機構)とKEK(高エネルギー加速器研究機構)の共同プロジェクトである大強度陽子加速器施設のこと。とっても難しそうでかっこいい感じがしますが、茨城県那珂郡東海村にある施設で、陽子を加速していろいろなターゲットにぶつけることで出てくるミューオンや中性子、ニュートリノなどを使って、いろいろな実験をしています。そんな楽しそうなJ-PARC、今回いろいろと取材させていただきました!

(前置き)J-PARCの基本的なこと

J-PARCは世界有数の陽子の加速器。まっすぐ直線330mのLINAC、周長350mのRCS、さらに周長1600mのMRと3つの加速器で構成されており、最大で光速の99.95%まで陽子を加速させることができます。必要な速さまで加速させた陽子をいろいろなターゲットにぶつけることで、中性子や中間子、ミューオンやニュートリノなどを作り、いろいろな実験に役立てているのです。

そんなJ-PARCを簡単に説明するとこんな感じ。

陽子を作って加速する施設、LINAC!

コマを横に配置してスライドなどに使いやすそうなver.はこちら

たんけんJ-PARCの第1回は、一番はじめの加速器のLINAC(リニアック)。LINACの役割はJ-PARCで使う陽子を作って、加速して、次の加速器であるRCSに送り込むことです。

LINACの簡単なイメージ図。

もうちょっと詳しく見てみましょう。イオン源で陽子に電子が2個ついた負水素イオンを作り、それをRFQ(高周波四重極加速器)、DTL(ドリフトチューブリニアック)、SDTL(機能分離型ドリフトチューブリニアック)、そしてACS(環結合型リニアック)の4種類の加速器を使って加速し、最終的には光速の71%まで加速して、次の加速器のRCSに送り込んでいます。

陽子を加速するとてもとても簡単なイメージ図。

陽子を加速する仕組みをとても適当に説明しようとすると、高周波の山あり谷ありな電磁波の山の部分にだけ上手に陽子が乗っかる仕組みを作って、電磁波からエネルギーをもらって加速するような感じです。とりあえず「高周波の電磁波を使って陽子を加速する」とぼんやりと憶えておいてもらえればいいかなと思います。

LINACの負水素イオンとRCSの陽子の合流部分のイメージ。

LINACで陽子ではなく負水素イオンを加速しているのは、マイナスの電気を持っている負水素イオンを使うことで、次の加速器であるRCSで回っている陽子とうまく重ねてあげられるから。負水素イオンを陽子と重ねてあげたあと、カーボン製ストリップフォイルというもので負水素イオンから電子2個をとってあげて、陽子だけのビームとなってRCSに入っていくのです。

写真で見てみるLINAC

ということで、さっそくLINACを見てみましょう!

リニアック棟

リニアック棟の入口。

ここがLINACが設置されているリニアック棟の入口になります。リニアック棟は地上2階に地下1階で構成されている建物で、LINAC本体は地下1階に設置されています。

LINACにはいるまえの関所。

エレベーターを降りてLINACが設置されている場所に向かっていくと、ちょっとした関所が見えてきます。LINACは放射線が絡んでくる施設になるため、人や物品の出入りをしっかりと管理しているのです。エリアから外に出るときには、人や物品に放射線を出すようなものが付着していないか、しっかりとチェックされます。放射線を扱うにあたって、とてもとても大事なことです。

IS(イオン源)

LINACのイオン源

これがJ-PARCで加速している陽子全てを作り出している、LINACのイオン源!

実際のイオン源と同じものの中身の写真にちょっと説明をのせたもの。写真だけのものはこちら

この中は大気圧の1億分の1くらいにまで空気を抜いた状態になっていて、そこに水素ガスを入れて放電をすることで、さらにそこにセシウムオーブンからセシウムの蒸気を吹きかけることで、陽子に電子が2個ついた負水素イオンを作り出しています。作られた負水素イオンを左側に取り出すわけなのですが、実はこの箱の部分がマイナスの電気を、セラミック絶縁管の左側の管の方がプラスの電気を帯びていて、マイナスの電気を持っている負水素イオンはセラミック絶縁管を通じて左側に向けて加速されるのです。

イオン源の中心部分の模型(にちょっと説明をのせたもの)。

これはイオン源の模型だそうです。真空に近い状態にしたプラズマ生成室の中に、水素ガスを右から送り込んで、中央のぐるぐるした線に高周波電磁場を送ることで水素のプラズマを作り、左側に負水素イオンを取り出しています。ここから出ていく負水素イオンの出口はたった9mmの穴、狭い!

ちなみに先程の実際のイオン源の中身が見えていた写真は、放電用の高周波が漏れないように普段は閉じているケージを開けた状態のものです。現在、実際にLINACで使われているものと同じもので、改良や実験のために別の場所に設置されています。まだまだイオン源もパワーアップしちゃうのかもしれません。

RFQ(高周波四重極加速器)

これがRFQ、Radio Frequency Quadrupole Linac。

イオン源で作られた陽子(正確には負水素イオンなのですが、以下では陽子と呼んでしまいます)は、最初の加速器であるこのRFQに送られます。写真の中央にある銅色の中身は波波になっていて、ここに高周波をかけることで、陽子のかたまり(マイクロバンチ)を作っています。ここから出る頃には、陽子は3MeVまで加速されます。

RFQの波波サンプル。

この上の部分が波波した金属、ベインと呼ばれるパーツがRFQの銅色の管の中を進む陽子のビームを4つの方向から囲うように組み込まれていて、これに高周波がかけられています。進行方向に進むにつれて、波波の間隔が広がっているのがわかるでしょうか。陽子がエネルギーをもらってその速度が早くなっても、ちゃんと高周波に同期するようにベインが設計されているのです。

たくさんのバルブ。

それにしてもすごい見た目をしていますね…!

DTL(ドリフトチューブリニアック)とSDTL(機能分離型DTL)

上からいろいろたくさん飛び出てるDTL、Drift Tube Linac。

RFQでかたまりになった陽子が次に送られるのが、このDTLです。黄色くて大きな管のような装置の上にたくさんのパイプがつながっていますが、この中で陽子はさらに加速されることになります。

短めの管のような装置がたくさん並ぶSDTL。

DTLの次はSDTL。DTLと違って、SDTLでは装置と装置の間に磁石と陽子の広がりをモニターするための装置が組み込まれています。このモニターで陽子のビームが曲がってしまったり広がってしまったりするのを監視しながら、磁石を使って調整するのです。(ちなみにDTLでは、この磁石は装置の中に組み込まれていて、外に出ているたくさんのパイプと電線が内部の磁石一つ一つに繋がっています。)

SDTLの装置と装置の間の距離は先に進んでいくにしたがって、どんどんと長くなっていきます。これは陽子が加速されていくと、1つの高周波の波で進めてしまう距離が長くなってしまうため。「ここにはこの速度で陽子が入る!」と細かく設計されて作られているので、どこか1つでも装置が壊れてしまうと、陽子は加速できなくなってしまうのです。陽子ビームって繊細。

ACS(環結合型リニアック)

ACS、Annular-ring Coupled Structure Linac

SDTLで加速された陽子は、LINAC最後の加速器であるACSに送られます。実はこの装置、2013年に導入された比較的新しいものです。陽子にかける高周波をSDTLの1/3倍の波長にすることで、短い距離でも陽子をうまく加速できるようにしています。陽子は21台のACSによって400MeVまで加速されて、いよいよ次の円形加速器、RCSに送られていくのです。

全長で300mくらいあるLINAC、とても長いことを実感してもらいたくて、最後にイオン源からACSまでてくてく歩いてみました。とても疲れました!

地上階にある設備たち

LINACの本体は地下1階に設置されているのですが、それでは地上階には何があるのでしょうか?

リニアック棟の地上部分。

正解はこの写真、LINACに電気や高周波を供給するための装置が300m並んでいます。壮観!

これは高周波の電磁波を作って下の階にあるLINACに供給している装置。右の写真では、高周波の電磁波を運ぶ管(導波管)が下の階に向かって降りて行っている様子が見えます。

おまけの写真

放射線の管理区域に入ったときに履いていた靴。

放射線の管理区域ではもちろん靴も履き替えるのですが、そのときに履いた靴の写真です。これだけしっかりマークが付いていたら、間違えて外で履くことはなさそうです。

今回のレポートを描くにあたって、LINACのいろいろをご説明してくださったJAEAの神藤さんには大変お世話になりました。お忙しいのにもかかわらず時間を割いていただき、本当にありがとうございます!

J-PARCのwebサイトはこちら。
https://j-parc.jp/c/

以前に描いたJ-PARCの記事はこのあたりから。

付録(マンガの横長ver.)

スライドなどに使いやすそうなレイアウトのマンガです。