日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構が誇る大強度陽子加速器施設、J-PARC。茨城県東海村にある、陽子を加速してぶつけていろんなことを調べちゃうとてもすっごい施設です。東京駅から特急と常磐線を乗り継いで東海駅、そこから車で少し行ったところにある原子力科学研究所の中にJ-PARCがあるのですが、今回こっそりと取材させていただきました。

【今回の取材では全天球カメラでの撮影もしてみました(この写真この写真)。スマホなんかを使うとVRっぽいコンテンツにもなるようですので、ぜひぜひ試してみてください。】

 

J-PARCは陽子を加速してターゲットにぶつけて、そこから出てくるものを使って、いろんなことをしちゃう施設。陽子に必要なエネルギーを持たせるために、この図のように3段階にわけて陽子を加速させて、それぞれの実験施設へと運んでいきます。今回は加速器全体を制御している中央制御棟、陽子を使ってニュートリノを作るニュートリノ実験施設、陽子を使ってミューオンや中性子を作って実験を行う物質・生命科学実験施設にお伺いしてきました。

 

中央制御棟

まずは加速器全体を制御している中央制御棟。とにかくモニターがいっぱい並んでます。

 

こんなにモニターがあるともうなにがなんだかですが、見る人が見れば加速器の具合がわかる!のかもしれません。また何かあると警告音が鳴るようになっています。実際に一回鳴ってました。

 

加速器のある施設の入口や内部を監視するモニターです。加速器を動かす時に誰かいたらとても危険ですから、入口の鍵をここで一元管理して加速器内に誰もいないことを確認しつつ、さらにモニターで監視しています。

 

この赤いボタンが3種の加速器の緊急停止スイッチ。今までに押されたことはまだ無いそうです。

 

2段目の加速器、RCSを監視しているモニターのようです。かっこいい。

夏の長期停止期間や保守点検以外、加速器は陽子を加速し続けているので、今回は加速器を直接見ることはできませんでした。残念。3段目の加速器MRなんて1周1600mもありますので、全部見ようとすると結構疲れちゃいそうです。

 

 

ニュートリノ実験施設

次にお伺いしたのがニュートリノ実験施設。3段目の加速器MRで加速された陽子を使ってニュートリノを作り、岐阜県飛騨市神岡町にあるスーパーカミオカンデにそのニュートリノを飛ばしちゃう、T2K実験を行っている実験施設になります。(T2K実験に関してはこのあたり4コママンガもあるよ!)

加速器から取り出した陽子を炭素でできているターゲットにぶつけてパイ中間子を作り、それがミューオンとミューニュートリノに壊れます。このミューニュートリノをJ-PARCでは2つの検出器、INGRID検出器とND280で検出しています。ニュートリノをスーパーカミオカンデに飛ばす前に、その状態を詳しく調べておかないといけないからです。INGRID検出器ではニュートリノのビームの方向を、ND280ではニュートリノのエネルギーについての情報を、ばっちりと測定しています。

 

そんな2つのニュートリノ検出器ですが、どちらも地下に設置されています。まずはND280。地上フロアからのぞいた感じがこんな具合です。赤茶色の磁石の中にニュートリノを検出するための装置が入っています。深いところにドカンと設置されているのがよくわかりますね。


 

全天球カメラで撮ってみました。ぐりぐりしてみてください。

 

こちらがもう1つの検出器、INGRID検出器です。この黒い箱が縦に7台、横に7台が十字に配置されていて、この箱のそれぞれでニュートリノを検出することができるようになっています。

 

そんな検出器たちをこんなモニターで監視していたりするわけです。この写真はND280でなにかが検出されている様子を表示しているところ。ちょっと、かなり、かっこいい。

 

もちろん更なるパワーアップを目指すべく、新しいニュートリノ検出器の開発も行っています。これはWAGASCI(わがし)と呼ばれるニュートリノ検出器の一部です。和菓子の箱みたいな見た目をしているから、だそうです。わがし。

 

 

物質・生命科学実験施設

最後にお伺いしたのが物質・生命科学実験施設

ここでは陽子を炭素のターゲットと水銀のターゲットに当てて、それぞれミューオンと中性子を取り出し、それを使っていろいろな実験を行っています。

 

中性子を使って実験をする実験装置たち。J-PARCで作られた世界最高強度の中性子のビームを使って、21種類の実験が計画・実施されています。ここで行われている実験は本当にさまざまで、おもしろいところでは、兵庫県の播磨科学公園都市にある加速器SPring-8、同じく兵庫県神戸市にあるスーパーコンピュータのと連携して、タイヤのゴムの開発なんかも行っていたりします。

 

この信号のようなものがついている青い壁の向こう側で中性子が作られていて、それぞれの実験装置へ中性子が運ばれていくわけです。ちなみに赤が中性子通過中、青が中性子遮断中です。なんか逆っぽいイメージもありますが、赤は危険、青が安全と考えるとそのとおりですね。


 

ここも全天球カメラで撮影してみました。レッツぐりぐり。

 

こちらはミューオンを使って実験する実験装置たち。J-PARCで作られた世界最高強度のミューオンのビームを使って、素粒子物理学だけでなく、物性物理学や材料科学、生命科学までいろいろな実験が計画・実施されているのです。

 

 

加速した陽子をいろいろな方法で活用して、いろいろな実験をしてしまうすごい施設、J-PARC。すごいところだろうなあとは思っていたのですが、やっぱりすごいところでした。この記事でちょっと興味が出てきちゃったアナタ、J-PARCでは毎年夏に一般公開も行っています。もし時間が許すようであればぜひぜひ遊びに行ってみてください。でっかい実験装置はとてもかっこよくて、見るだけで楽しいものです。私も行けたらぜひ行きたい。今回の取材ではJ-PARCの照沼さま、宇津巻さま、高エネルギー加速器研究機構の山本さま、京都大学の平本さま、中家さまに大変お世話になりました。本当にありがとうございます!

J-PARCのwebサイトはこちら。
https://j-parc.jp/index.html