(LHCアトラス実験オフィシャルブログに掲載しているものの再掲です)

ちょっと間が開いてしまいましたが、第3回目の「絵で見る物理学」。今回は反物質なんてものについてのお話です。

去年の5月に公開されたトム・ハンクスさん主演の映画「天使と悪魔」、憶えていらっしゃいますでしょうか?その「天使と悪魔」の舞台の一つとして、LHCを建設したCERN、欧州原子核研究機構が登場しているのはご存知の方も多いかと思います。CERNの研究者が作り出した「反物質」をめぐって、バチカン市国を駆けまわるドタバタ大騒動……とかそんなお話だったと思うのですが、この「反物質」が今回のお話のテーマです。映画に出てきた反物質がどれだけ科学的に正しいのか?ということに関しては昨年、東京大学の早野先生がお話ししていますので、こちらもちらりとご覧下さい。

で、そもそも反物質って何でしょうか?その説明にはまず「反粒子 antiparticle」というものの説明が必要になります。前回までのお話の中で素粒子がいっぱいいっぱい、出てきたかと思います。その素粒子たちには「質量がまったく同じだけど電気的な性質が正反対」なんて微妙なそっくりさんがいるんです。そのような素粒子のことを、反粒子と呼びます。例えばクォークの反粒子は反クォーク、ニュートリノの反粒子は反ニュートリノ、電子の反粒子は陽電子。直観的で分かりやすい名前です。そんな反粒子ですが、普通の粒子と同じように4つの力で、陽子や中性子を作って、原子をつくって、分子をつくって、物質をつくることができます。反陽子、反水素原子、反水分子、反たまごに反にわとりなどなど……。そのように反粒子でできた物質を反物質といいます。

その反粒子ですが「粒子と反粒子が出会うとエネルギーを出して消えちゃう」という対消滅なんて性質を持っています。また逆に「大きなエネルギーがあると、そこから粒子と反粒子が生まれる」対生成なんて性質も持っています。この対消滅の時に生まれるエネルギーはとってもとーーっても大きいもので、消えちゃった粒子と反粒子の質量が大きければ大きいほど、大きなエネルギーが生まれます。例えばもし「まんじゅう」と「反まんじゅう」、この二つが出会って対消滅して生まれるエネルギーはなんと、日本国内の原子力発電所で作られるエネルギー1.5日分と同じくらいになります*1。まんじゅう怖い!?

「なんでこの世界は反物質がほとんどないんだろう?反物質ばっかりの世界でもいいじゃーん!」なーんて疑問を思い浮かべる人もいるかもしれません。実は、そんな疑問を解決するためにもLHCはがんばっているんです。そこらへんのことはまた今度、機会があればお話ししたいと思います。がんばれLHC!がんばれATLAS!

そして今回のお話の反粒子のおかげで、みなさんの知っている素粒子の数が一気に2倍くらいに増えました。やったね!

*1:原子力発電所のエネルギーの数値は資源エネルギー庁長官官房総合政策課編「総合エネルギー統計」の2008年度の数値2.248*10^18J/year、まんじゅうは1個50gで計算しています。