スーパーカミオカンデちゃん、ニュートリノ検出感度のさらなる向上のためにガドリニウムのおかわりをしました。

これまでのあらまし

岐阜県の神岡の地下でニュートリノの観測を行っている実験装置のスーパーカミオカンデちゃん、2020年の8月頃にニュートリノ検出感度の向上や超新星背景ニュートリノの観測を目指してタンクの水にガドリニウムを加えました。

ガドリニウムを追加する

1リットルの超純水に対して0.26グラムの硫酸ガドリニウム8水和物を加えたものをタンクに入れて観測を行ってきましたが、ニュートリノの観測に大事な水の透明度や安全性に問題はなかったので、さらに0.52グラムの硫酸ガドリニウム8水和物を加えることになりました!

とっても少ない量にも思えますが、スーパーカミオカンデちゃんの大きなタンクに入れるとなると、なんと26トンにもなります。これだけの硫酸ガドリニウム8水和物を用意するのも大変だし、それを水に一様に加えるのも大変です。タンクの中でガドリニウムの濃度に偏りがあったら、ニュートリノ観測の感度に偏りができてしまうので大問題になってしまうのです。

具体的にどのようにしてガドリニウムを加えた水をスーパーカミオカンデのタンクに入れていくのか、簡単な図にしてみました。

タンクに入っている水を上から抜き出して、その水にガドリニウムを加えてよく混ぜて、タンクの下の方に静かに戻していきます。こうすることによってタンクの中のガドリニウムの少ない水が、ガドリニウムの多い水にゆっくりと置き換わっていくことになるのです。

ガドリニウムを加えてみよう

ガドリニウムを加える装置の全景

ガドリニウムを水に加えている場所

そしてここがスーパーカミオカンデのタンクの水にガドリニウムを加えている現場です!かっこいいので何枚か写真を並べておきます。

ガドリニウムを加える現場から少し離れたところ
上の方から眺めてみました

実はここ、建設中に一度お伺いしていて、その時の写真もたくさん記事にさせていただいていました。

その時とはずいぶんと雰囲気が違っているので、見比べてみると面白いかもしれません。

たくさんの硫酸ガドリニウム8水和物

硫酸ガドリニウム8水和物のはいったたくさんの段ボール
たくさんのダンボールに入った たくさんの硫酸ガドリニウム8水和物

この段ボール箱の中身が全部、硫酸ガドリニウム8水和物です。これでも数ブロック分はすでに水に加えたので、少し減った状態になっています。

硫酸ガドリニウム8水和物はこの蓋の付いているところに投入します

このたくさんの硫酸ガドリニウム8水和物を、人力で送粉機(水に加える前の一時保管場所)に入れます。

水と混ぜる

硫酸ガドリニウム8水和物と水をはじめに撹拌する装置

送粉機に入れられた硫酸ガドリニウム8水和物は一定時間ごとに一定量が写真のこの装置の中に落とされるので、ここにタンクから持ってきた水をすごい勢いで加えてかき混ぜます。

すごい勢いでかき混ぜられてる硫酸ガドリニウム8水和物と水

もともとは食品用の装置らしいのですが、ここでは素粒子物理のために働いてもらっています。

撹拌されるガドリニウムを加えた水

そのようにして硫酸ガドリニウム8水和物を加えてかき混ぜた水を、今度はこちらの容器に移してぐるぐるぐるぐると撹拌し続けます。

そして一様にガドリニウムが加えられた水は、スーパーカミオカンデのタンクにゆっくりと戻されていくのです。

ガドリニウムの濃度を確認する

各部分での水の電気伝導度のメーター

ちなみにガドリニウムがどれだけの濃度で水に加わっているのかは、水の電気伝導度を使って調べています。それそれの地点で、目標のガドリニウム濃度(電気伝導度)になっているか確認しながら作業が進んでいるのです。

スーパーカミオカンデのタンクの上にある謎の黒いブース

もちろんタンクの中に入れられた水の中のガドリニウムが一様になっているかどうかも確認しないといけません。そのためにスーパーカミオカンデのタンクの上にこのような黒いブースが作られています。

黒いブースの中の様子。左手に椅子、中央に丸い蓋、下の箱の中には長いケーブルとサンプリングチューブがあります。

この暗幕で覆われたブースの中からタンクの中からサンプリングチューブを下ろしてその水の電気伝導度を調べ、ガドリニウムの濃度が予定通りになっているのかどうかを確認しています。ブースが暗幕で覆われているのは、スーパーカミオカンデでは現在もニュートリノの観測が行っているため。余計な光が入ってしまうと、ニュートリノが作り出す弱い光が見えなくなってしまいます。(ちなみに赤い光にはフォトマルは感度がないので、このような赤いライトが部屋に設置されています)

タンクの中のガドリニウム濃度を測定するスーパーカミオカンデちゃん(イメージ)

まとめ

このような感じで慎重にタンクの水にガドリニウムを加えていって、ニュートリノに対する感度をさらに高くしようと頑張っているスーパーカミオカンデちゃん。この作業は7月4日に終わり、より高感度での観測が始まります。さらなるスーパーカミオカンデちゃんの活躍に乞うご期待です。

今回の記事でも東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設の関谷さんに大変お世話になりました。いつもありがとうございます!

東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設の関谷洋之さんとひっぐすたん

公式のプレスリリースはこちら

スーパーカミオカンデへのガドリニウム追加を開始しました
https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/news/detail/390/

おまけ

最後にいろいろと小ネタっぽい写真を詰め合わせで入れておきます。

真面目なおまけ

UV殺菌器の操作盤
右側のパイプの中に石英に囲われたUVライトが仕込まれています

これはタンクの水に紫外線(UV)を当てる装置です。タンクの中でバクテリアが増えてしまうとどんなノイズが乗るかわからないので、その発生を少しでも抑えるために水を紫外線で殺菌しています。

この部屋の入口、敷居があります

ガドリニウムを加える作業をしている部屋の入口には敷居がついていて、万が一、ガドリニウムの入った水が漏れてもその水が外の環境に漏れ出さないようにしています。すべての水が漏れてしまったとしても、この高さがあればすべてせき止められるそうです。

本当におまけ

会議室(段ボール)

ガドリニウムを加える部屋にあったオンラインミーティング用の部屋(段ボール箱)。意外と装置がうるさいので、この箱(段ボール箱)に入ってミーティングに出ているそうです。秘密基地みたい。

ひっぐすたんのマンガ

タンクに貼ってあったひっぐすたんのマンガ。ありがとうございます!

スーパーカミオカンデちゃんのアクリル飾り

ブラブラするスーパーカミオカンデちゃんのアクキー。かわいい。

ひっぐすたんたちの邂逅

スーパーカミオカンデに常駐しているひっぐすたん(奥)と世界を旅しているひっぐすたん(手前)。

スーパーカミオカンデのモニターとスーパーカミオカンデちゃんとひっぐすたん

スーパーカミオカンデのディスプレイモニターの前にはスーパーカミオカンデちゃんの人形が座っていました。かわいいですね。