【今回の記事は東京大学宇宙線研究所附属 神岡宇宙素粒子研究施設のサポートを受けて描かせていただいております】
みんな大好きスーパーカミオカンデちゃん、その後継となるハイパーカミオカンデちゃん建設の進捗情報の第4回です!
第1回から第3回の成長日記はこちら。
これまでの建設状況
これまでの工事で、ハイパーカミオカンデの主要部となるタンクの建設場所にアクセスするための約1900mのアクセス坑道と、タンクの上からアプローチする1号アプローチ坑道と下からアプローチする4号アプローチ坑道の2本のアプローチ坑道が完成しています。
また2022年6月には別の場所から掘っていた調査用の坑道とアプローチ坑道が繋がりました!
2022年6月と2023年3月の坑道入口の写真を比べてみると、設置されていた送気ファンがなくなっています。坑道が貫通して出口が2か所以上に増えたことで、現在では入口から空気を送り込む必要がなくなったためです。
ハイパーカミオカンデちゃん最新状況(2023年3月時点)
工事を進めるための坑道がタンクの建設場所まで到達したので、これからはハイパーカミオカンデ建設のためのいろいろな工事が並行して進められていきます。
これがハイパーカミオカンデのタンク周りの建設予定図。中心に据えられているのが実験装置のメインとなる巨大なタンク、その周囲を外周坑道がぐるりと回っていて、その外側に実験に必要な設備を設置するための部屋が作られる予定になっています。
ハイパーカミオカンデの本体空洞をつくろう!
まずはハイパーカミオカンデの実験装置のメインとなるタンクが設置される、本体空洞の掘削現場です。
ハイパーカミオカンデでもスーパーカミオカンデと同様に、ニュートリノを見つけたり陽子崩壊を見つけたりするためにとっても大量の水を観測に使います。その水を入れるタンクは直径68m、高さ71mの円筒形をしているのですが、その上部にはいろいろな作業をするために高さ21mの半球状のドームのような空間が作られます。
このタンクとドームのために、直径69m、高さ94mの本体空洞を地下に作ることになります。
本体空洞上部のドームの掘削方法ですが、まずはドームの天井までぐるっとまわりながら登る坑道(頂設導坑)を掘り、そこから外側に向かって掘りながら足元も掘り下げて、ドームの形を作っていきます。
掘削して出てきた岩石はタンクの上部につながっている1号アプローチ坑道を通って、排出されています。
これがハイパーカミオカンデの空洞上部のドームの天井!この写真を撮影した時点でのドームのサイズは広い所は直径40m、狭い所で34mくらいです。
先に説明したように、ぐるっと回りながらドームを掘り広げていっているので、カタツムリの殻のような模様が見えています。
トゲトゲがたくさん天井から生えていて、ちょっと怖い感じもありますが、もうすこし近づいて見てみましょう。
鹿島建設の日野さんとひっぐすたんとドームの天井。いい笑顔ありがとうございます!
天井の中央を拡大した写真。よく見るとケーブルが這い回っていて、岩盤に異常な変形がないかなどを監視するためのデータを取っています。
トゲトゲ部分を更に拡大したもの。よく見るとチューブ状になっています。実はこのトゲトゲは「アンカー」と呼ばれる杭になっていて、天井の岩盤を固定するために使われています。
これはアンカーの構造を簡単に説明するためのサンプル。1本のアンカーは何本もの鋼線をよりあわせたケーブルでできています。岩盤にあけた穴にこのケーブルを写真の右の方を先にして差し込み、先端を岩盤に固定したうえで、アンカー1本あたり最大で約60トンの力をかけて岩盤を押さえつけて固定しているそうです。
これはアンカーの内部に流し込んでいるモルタルが固まったもの。とっても硬い神岡の岩石で叩いてとっても良い音がしています。本当にガチガチです。
実は長いトゲトゲは最終的には短くカットしてカバーをつけるのですが、今はアンカーで岩盤を押さえつける力を調整できるように念のため残しているそうです。
またドームの天井の岩盤の状態を計測するための装置から伸びているケーブルですが、ドーム内側で撮影した左の写真の部分からドーム外側で撮影した右の写真の部分に、有線で引っ張り出されています。
ケーブルの先には計測室と呼ばれるプレハブ小屋があって、
この部屋の中で測定結果が確認できるようになっています。
現在は半分くらい掘り進めたところ。2023年中にドーム部分の掘削は終了する予定です。
こちらはドーム中心から撮影した360度見られる画像になっています。思いっきりぐりぐりしてみてください。ぐりぐり。
外周坑道をつくろう!
中央のタンクをぐるっと取り囲むよう外周坑道ですが、こちらは2023年3月の時点ですでに完成していました。
1号アプローチ坑道に近い部分の外周坑道ですが、かなり広く作られています。全体がこんなに広いわけではないのですが、トラックの出入りの多いこのあたりは特に広く作られています。
外周坑道の側面は基本的にコンクリートを吹き付けて固められているのですが、この写真のように岩石が露出している部分があります。これはタンク空洞の岩盤がどのようになっているかを調べるため。
神岡の岩盤はとても硬くて頑丈なのですが、この写真のように硬い岩盤と硬い岩盤の間に少し脆い岩盤が挟まれていたりするところが部分的にあります。このような岩盤の様子を外周坑道でぐるっと調べることによって、タンクの空洞を作る予定の場所の岩盤の構造を知ることができるのです。
純水装置の部屋をつくろう!
ハイパーカミオカンデのタンクの容量は26万トン、ここに水をいっぱいに詰め込むわけですが、タンクの水をきれいに保つために循環させるため、実際にはそれ以上の純水が実験には必要です。神岡の水はとってもきれいではあるのですが、実験に使う水には余計なものが何も含まれていない超純水である必要があります。
ハイパーカミオカンデに必要な純水を供給するための部屋が、この純水室です。広い!
もうちょっと近づいて見ると、掘り終わってコンクリートを吹き付けた部分と、これから削り取る部分とが見えます。
天井を見てみると吹き付けたコンクリートに打ち付けているアンカーが飛び出して見えます。
そのアンカーを打ち込む穴を開ける機械がこちら。ゲームにでも出てきちゃいそうなかっこいい見た目をしていますね…
この写真の中央の凸凹の付いた棒で、岩石を叩いて壊しながら穴を掘っていきます。ドリルみたいに回転して掘っていくのかと思っていたのですが、岩盤が硬すぎてドリルでは追いつかず、「水をかけて熱を逃しながら鉄の棒で叩いて壊す」という方法で穴を掘っているそうです。
この純水室ですが、実はまだまだ掘削している最中。ここからさらに同じだけの高さだけ下に掘り進めます。最終的には純水室だけでスーパーカミオカンデのタンクの容量の半分くらいのサイズになる予定です。この広さから、どれだけ多くの純水が必要になるのか、ちょっとだけわかるような気がしますね。
いろんな写真
真面目な写真
1号アプローチ坑道と外周坑道の交差点は、どちらからきても一時停止です。こうやって地面にぐるぐる回ってアピールしています。
純水室の壁に取り付けられていたプリズム。これを使って、壁が歪んで動いていないかチェックしているそうです。
4号アプローチ坑道の先端部、つまりタンクの底の部分の写真です。現在はタンク上部で作業を行っているので岩石で埋もれた状態になっています。ですがこの部分の天井をよく見てみると…
穴がたくさん開いています。実はこれ、岩盤にアンカーを打つための穴を開ける練習をした結果にできた穴だそうです。神岡の岩盤はとっても硬いので、穴を開けるのもとても大変。練習なしでは難しかったそうです。
何かあった時に使うルミカライト。
よく見るとこのルミカライト、一部の人たちにはとても親しみのある気がする「大閃光」っていうやつです。
坑道の入り口近くに貼られているパネル。大規模すぎてちょっと忘れてしまうのですが、これも普通の工事なんですね。
ゆるい写真
ドームの岩盤の状態を測定するための測定室はちょっとした休憩場所になっています。コーヒーも飲めます。
神岡町にある喫茶店 あすなろさんの、とっても美味しいコーヒー。道の駅「スカイドーム神岡」で買えるスーパーカミオカンデの写真がパッケージのドリップコーヒーは、あすなろさんのものだった気がします。
富山名物っぽい昆布とエビの押し寿司と、スーパーカミオカンデ仕様のカップ酒。ラベルの後ろにフォトマルの写真が印刷されていて、カップ酒のビンをスーパーカミオカンデの観測装置に見立てています。似てるかも。でも中身は超純水ではなくて、とってもおいしい日本酒。
最後に
これからのハイパーカミオカンデ建設
メインとなるハイパーカミオカンデのタンクが設置される、空洞上部のドームの掘削は今年中に終わり、いよいよタンク本体部分の空洞の採掘が始まる予定になっています。
またタンク部分の工事と並行して、外周坑道の外側に純水室や工作室など、ハイパーカミオカンデの実験を支えることになる部屋になる場所が作られていく予定です。
お礼
今回もレポートを描くにあたって、東京大学宇宙線研究所の田中さん、井下さん、武長さん、鹿島建設株式会社 中部支店 神岡HKトンネル工事事務所の 鈴木さん、日野さん、森下さんには大変お世話になりました。お忙しいのにもかかわらず時間を割いていただき、本当にありがとうございます!
東京大学宇宙線研究所附属神岡宇宙素粒子研究施設のサイトはこちらから。
https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/
素粒子はかわいい。素粒子のイラストやマンガを描いています。博士(理学)