岐阜県飛騨市神岡町にある神岡鉱山の地下1000メートルで、液体シンチレータと呼ばれる少し特殊なオイルを使って反ニュートリノを検出する実験、KamLAND(カムランド:Kamioka Liquid Scintillator Anti-Neutrino Detector)。東北大学が中心となって行っている実験ですが、現在は次世代のKamLAND2の始動に向けて、検出器のアップグレードが進められています。

レポートその1その2はこちら。

今回拝見させて頂いたKamLANDのいろいろをまとめた動画はこちら!

前回までのあらすじと今回の状況

前回までの記事で、KamLANDの球体ステンレスタンクに入っていたオイルをすべて排出し、その中に実際にお邪魔させていただいたようすをお伝えしました。その後、いよいよタンクの内面に取り付けられていた光電子増倍管の取り外し作業がスタートしました!

直径18メートルの球体の内側に並んでいる光電子増倍管を、そのままの状態で外すのはちょっと大変。そこで、まずタンクに水を入れ、その水面にフロート(浮く足場)をぷかぷか浮かべます。作業の人たちはそのフロートに乗って、光電子増倍管をひとつひとつ取り外していくのです。

水を入れた内部検出器の中に入ってみよう

今回お伺いしたタイミングでは、球体タンクの中の半分よりも少し上あたりまで水で満たされた状態になっていました。

以前の記事で、球体タンクの中に入っていたオイルを排出するためのラインの写真を紹介したことがありましたが、今回はその同じラインを使って水を入れているんです。

タンクの中へ!

水が入っている球体タンクの中に入るには、もちろん上から入らないといけません。上からゴンドラで、ゆっくりとタンクの中へ入っていくんです。

今回は、そのゴンドラに乗せていただいて、実際に中へ入らせてもらうことになりました!ドキドキ…!

こちらが、球体タンクの中に入るときに使うゴンドラです。ゴンドラを使って、人や資材を乗せてタンクの中まで運んでいきます。

ということで!ゴンドラで球体タンクの中に入っていく動画をどうぞ!

水を入れた内部検出器の中のようす

こちらが、光電子増倍管を取り外している最中の球体タンクの中です。上半分の半球には光電子増倍管がずらりと取り付けられていて、下半分には水色の仮設っぽい足場が広がっています。なんだかとっても不思議な光景ですよね。

球体タンクの中を360度カメラでも撮影してみました。この不思議な雰囲気、ぐるっと見回して感じてみてください!

タンクの端の方に行ってみると、フロートの下が水で満たされているのがわかります。スーパーカミオカンデのタンクでも感じたんですが、水って、ちゃんと青く見えるんですよね。

球体タンクの内面に目をやると、取り外しを待っている光電子増倍管がずらりと並んでいます。写真の下のほうにあった光電子増倍管はすでに取り外されていて、壁面のステンレスがそのまま見える状態になっていました。

壁面から取り外された光電子増倍管の一部は、フロートの上に並べられていました。ちょっと余談ですが、光電子増倍管を覆っている銀色のカバー、実は市販のタイヤカバーなんだそうです。

光電子増倍管を取り外そう!

こちらが、球体タンクの壁面に取り付けられている光電子増倍管です。今回の改修では、性能の良い新しいものに交換するために、すべての光電子増倍管が取り外されることになっています。

それでは、いよいよ取り外していきましょう!

光電子増倍管の重さは本体だけで約12kg、フレームも含めると約15kgくらい。ひとりで取り外すのは危険なので、写真のように3人がかりで慎重に作業を進めていきます。

壁面に取り付けている最後のネジを外すときは、見ているこっちまでちょっぴり緊張してしまいます…!

これが、無事に壁面から取り外された光電子増倍管です。KamLANDが実験を始めたときからずっと活躍してきた光電子増倍管さん、本当にお疲れさまでした。

取り外された光電子増倍管は、写真のように専用の台に4つまとめて固定されて、ゴンドラでタンクの外へと運び出されていきます。

ゴンドラで光電子増倍管がタンクの外へ運び出されているようすを、タイムラプス撮影してみました。光電子増倍管の取り外し作業をしているところも映っていますので、ぜひ探してみてください!

いろいろな作業を終えて、ゴンドラで球体タンクの外に上がっていくようすも撮影しました。水色の足場や壁面の光電子増倍管から遠ざかっていく光景は、すごく不思議な感覚を覚えてしまいます。

取り外された光電子増倍管のゆくえ

ゴンドラでタンクの外に運び出された光電子増倍管は、ていねいに専用の台から下ろされていきます。

取り外された光電子増倍管は、基本的にはすべて廃棄されてしまうのですが、そのうちの一部は製造元である浜松ホトニクスに回収されます。オイルの中という特殊な環境で、20年ものあいだ作動し続けていた貴重なサンプルとして、いろいろと調べられるのだそうです。

光電子増倍管は別の場所に移動する前に、タンクの壁面に取り付けるための金具などのパーツを取り外します。すっぴんの状態になったわけです。

すっぴんになった光電子増倍管は、クッションの入った専用の箱にひとつずつ詰められます。中のガラス部分の内側は真空になっているので、慎重に運ばれていきます。

箱に詰められた光電子増倍管は、いよいよKamLANDの実験装置のある空間からその外へ、トラックで運び出されます。

ちなみに、神岡鉱山のKamLANDのてっぺんにつながる坑道は、トラックがぎりぎり通れるくらいの細い道。このトラックは、その急坂の細道をバックで登ってきたそうです。すごい技術…!

こうしてトラックで神岡鉱山の別の場所に運ばれた光電子増倍管。ここでいよいよ、最後の処理が行われます。

木箱の中に入れられた光電子増倍管は、この中でガラス部分に穴を開けられます。もともと真空だったガラスの中に空気を少しずつ入れていくことで、爆縮することなく、安全に光電子増倍管を破壊することができるんです。

ちなみに、木箱の中に入れるのは、万が一爆発しても安全なようにするためだそう。あとで伺った話ですが、約1900本もの光電子増倍管を、一度も爆発させることなく破壊できたそうです。よかった…!

こちらが、破壊された光電子増倍管のガラス部分。粉々です。

光電子増倍管の残骸(ベース部分)。

そしてこちらが、光電子増倍管のベース部分です。なんだかちょっぴりさみしい気持ちになりますね。長いあいだ本当にお疲れさまでした。

おまけ

約1900個もの光電子増倍管を取り外すこの大作業、もちろん無計画には進められません。どのブロックの光電子増倍管がすでに取り外されたのか、これから作業するのはどこなのか、そんな情報を整理するためのマップがありました。ひとつひとつの作業がていねいに進められていることが伝わってきます。

光電子増倍管を取り外す作業は、気力も体力もとっても使います。そんな現場では「しっかり休むこと」もとっても大事!坑内のとある部屋には、作業の合間にひと息つけるように、お菓子や飲み物が置いてありました。おいしそう。

おわりに

球体タンクの内側に取り付けられた約1900個の光電子増倍管を取り外す作業は、今回の改修工事における大きなマイルストーンのひとつです。この作業が完了すると、これまでのKamLANDのなごりを少しずつ手放しながら、いよいよKamLAND2へと歩みを進める段階に入っていきます。

長年にわたって活躍してきた装置を解体するというのは、すごくさみしさを感じますが、これが新しい実験へとつながる大切な一歩です。がんばれKamLAND!

今回のレポートを描くにあたって、東北大学ニュートリノ科学研究センターの市村さんや竹内さん、みなさんには、多大なるご協力をいただきました。いつも本当にありがとうございます!

KamLANDのwebサイトはこちら
https://www.awa.tohoku.ac.jp/kamland