太陽ニュートリノとニュートリノ振動

改めて、2015年のノーベル物理学賞を東京大学宇宙線研究所 現所長の梶田隆章先生とカナダ クイーンズ大学 名誉教授のアーサー・マクドナルド(Arthur B. McDonald)先生が受賞されました。受賞理由は「ニュートリノ振動を発見し、ニュートリノに質量があることを示した」とのこと。

素粒子物理学の分野でノーベル賞を頂くのは、梶田先生が身近な存在であったこともあって嬉しいですし、なによりも2002年の小柴先生の時以来のニュートリノ再び!っていうのがとても嬉しいです。

で、前回の記事ではニュートリノ振動と大気ニュートリノについて説明してみましたが、今回の記事ではニュートリノ振動を証明したもう一つの現象、太陽ニュートリノについて描いてみようと思います。

 

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太陽ニュートリノって?

太陽ニュートリノとは、その名前の通り、太陽から飛んでくるニュートリノ。空にサンサンと輝いている太陽のエネルギーは、その太陽の内部で起きている原子核と原子核が合体して別の原子核になるという核融合反応が連鎖的に起こることで供給されています。その核融合反応の過程で、実はたくさんの電子ニュートリノが生成されているのです。ニュートリノは他の素粒子ととっても反応しにくいので、太陽の内部で作られた電子ニュートリノはそのまま太陽から外へ飛んで出てしまいます。それが地球にまで降り注いでいるわけです。

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太陽ニュートリノ問題

そのようにして太陽の内部で核融合反応によって作られた電子ニュートリノですが、これを実際に観測してみるとどうも予想される数よりも少ないんです(太陽の内部で起きている反応は標準太陽模型と呼ばれるモデルで上手に説明されていてがあり、そこから太陽から地球に飛んで来る電子ニュートリノの数も予想できていました)。地球上でいろいろな方法を使って観測してみても、減る数は違えどどの実験でも予想される数よりも少なく観測されるので、実験のやり方が悪いようではなさそう。となると、これは予想がおかしいのか、ニュートリノになにか起こっているのかどちらかです。この太陽から出てくる電子ニュートリノが少なくなっている問題のことを、太陽ニュートリノ問題と呼んでいました。

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この太陽ニュートリノ問題を提起したのが、アメリカのサウスダコタの金鉱山で行われたHomestake実験です。この実験は「電子ニュートリノが塩素の原子核に飛び込むと、アルゴンの原子核と陽電子に変身する」という現象を利用してニュートリノを検出するというもの。2002年に小柴昌俊先生と一緒にノーベル物理学賞を受賞されたレイモンド・デイビスJr.先生たちによって行われました。その後、日本のカミオカンデやスーパーカミオカンデなどの実験でも太陽ニュートリノ問題は確認され、世界各地の実験で問題の解決を目指しました。

 

SNO実験

そうして太陽ニュートリノ問題の解決を目指した実験のひとつが、マクドナルド先生がディレクターを務めた、カナダのサドバリーで行われたSNO(Sudbury Neutrino Observatory)実験です。SNO実験とは、ニッケル鉱山の地下2000mに作った大きな空洞を水で満たして、その中に直径約18mでその内側に約10,000個の光を検出する装置を取り付けて水を満たしたタンクと、さらにその内側に塩化ナトリウムを加えた重水(後で説明しますが、ちょっと特殊な水です)を詰めたアクリル製のタンクを設置して行う実験。この一番中央の重水部分に飛び込んだニュートリノが電子や重水の原子核と反応して光を出し、それを光を検出する装置で検出することでニュートリノを見つける仕組みです。

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ちなみにタンクの中心に詰められている重水ですが、これは水分子の中の水素原子2つが重水素原子2つに置き換わった水のこと。そして重水素原子というのは、水素原子ではその中の原子核の部分が陽子1個なのに対して、陽子1個と中性子1個を原子核としている原子のことです。つまり普通の水素原子に比べて、重水素原子は中性子1個分多いわけです。 この重水素原子がSNO実験のとても大事な部分になっています。solar05

 

このSNO実験は、電子ニュートリノだけが検出される方法とミューニュートリノとタウニュートリノを加えた3種類のニュートリノ全部が検出される方法の両方があります。検出のおおざっぱな仕組みはスーパーカミオカンデと一緒で、電子が水の中を走るときに出てくるチェレンコフ光を光の検出装置で捕まえます。

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これで太陽から飛んできているニュートリノを観測してみると、確かに電子ニュートリノだけを数えてみると予想よりも少ないのですが、3種類のニュートリノ全部の数を数えてみると予想される数とと一致したんです。これはつまり、太陽で生成された電子ニュートリノが太陽から地球に来るまでのどこかでミューニュートリノやタウニュートリノに変化してしまっているということ、すなわちニュートリノ振動が起きているということです。

同様の実験結果はスーパーカミオカンデでも得られていて、これらの結果を合わせていよいよ「太陽ニュートリノ問題はニュートリノ振動によって起こるものである!」との結論が得られたのです。

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このSNO実験のディレクターであったマクドナルド先生は、大気ニュートリノからニュートリノ振動を説明した梶田先生と併せて、今回のノーベル物理学賞を受賞されたわけです。