重いニュートリノが軽いニュートリノに壊れるところを見つけたいCOBANDさんのマンガ。

ニュートリノに質量があるということはニュートリノ振動などの観測によってわかったのですが、実際にどれくらいの質量があるかということはまだわかっていません。そんなニュートリノの質量を決めてしまおう!という目的で行われようとしている実験のひとつが、筑波大学が中心となって行っているこのCOBANDさんこと、COBAND(Cosmic Background Neutrino Decay Search)実験です。

この世界には3種類のニュートリノがあって、ニュートリノ振動の観測によってそれぞれが質量を持っているということまではわかってきました。ですが、その質量はまだ測定されていません。

そこで注目したのが「重いニュートリノが壊れて軽いニュートリノと光になる」という現象。この現象をばっちり観測して光子(光)のエネルギーを測定すれば、重いニュートリノと軽いニュートリノの質量の違いがわかるはずです。ですがまだ、実際に観測されたことはありません。めったにおきない現象だと予想されているからです。

だからといって簡単にあきらめる素粒子物理学者ではありません。たとえめったにおきない現象であっても、それ以上にたくさんのニュートリノを観測していればいずれ見ることができるはずです。そこで目をつけたのが宇宙背景ニュートリノというもの。これは宇宙が生まれてから数秒後に生まれたニュートリノが生まれて以来そのまま残って、ずっとこの宇宙に満ちあふれていると考えられています。その数なんと1立方センチメートルに100個!これだけの数があればニュートリノが壊れる様子も見られそうです。おまけに宇宙背景ニュートリノそのものの存在を確かめるというステキな目的もついてきてしまいます。


宇宙には、宇宙が生まれて数秒後に作られた宇宙背景ニュートリノが満ちあふれていると考えられています。

ですがですが、この宇宙背景ニュートリノが壊れたときに出てくる光はとっても弱いと予想されています。普通にはとても見ることはできません。ではどうするか。宇宙に行くのです。空気などに邪魔をされない宇宙で、ニュートリノが壊れた時に出てくる光を探すわけです。しかしながら、そんなに弱い光をちょうどよい具合に検出する装置はありません。なければどうするか。ちょうどよい具合の装置を、素粒子物理学者が作るのです。

そこでベースとなったのが超伝導トンネル接合素子検出器という技術。これは電気を通さない絶縁体の薄い膜を電気をいくらでも通す超電導体でサンドイッチした構造をしていて、表面の超電導体で光を受けると超電導体の中の電子がそのエネルギーをもらって自由に動き出します。その電子がトンネル効果(名前がかっこいいからどこかで聞いたことがあるかもしれません)で絶縁体を通り抜けて、裏面の超電導体に移動することで電流が流れます。つまり電流が流れた時に、光を受けたということになるわけです。(ここの説明は申し訳ないのですがかなりはしょっています。面白い技術だと思うので詳しく知りたい人はぜひ調べてみて下さい。)

現在、宇宙背景ニュートリノの崩壊の探索にちょうどいい検出器を絶賛開発試験中で、実際にテスト用の検出器のチップを作って地上で試験も行っています。


試作品の検出器のチップ。


そんなチップを試験装置に組み込んで試験を行います。


チップ表面を顕微鏡で拡大したもの。うっすらと見えるひし形の部分ひとつひとつが光検出器になっています。うひゃー。

このチップをさらにパワーアップさせて、2019年にはロケットに乗せて短時間、そして2020年以降には衛星に乗せて長時間、宇宙背景ニュートリノの崩壊を探索する実験を行おうとしています。またいろいろと応用が効くかもしれないこの検出器、ニュートリノの崩壊を宇宙で見つける他にもどこかで活躍してしまうかもしれません。

それにしてもニュートリノの崩壊を見つけるために、検出器のチップを作ってしまう素粒子物理学者のその想いというか執念というかには本当に頭が下がります。すごい。

今回のマンガや記事を描くにあたって、筑波大学の金さま、武内さま、筑波大学素粒子研究室のみなさまにとてもお世話になりました。ありがとうございます!

そんなCOBAND実験のwebサイトはこちら。
http://hep.px.tsukuba.ac.jp/coband/

 

こちらのマンガや記事は新学術領域研究 ニュートリノフロンティアの融合と進化のサポートを受けて描かせていただいております。